東京高等裁判所 昭和26年(ナ)48号 判決
原告 東風石松 外二九名
被告 千葉県選挙管理委員会
被告補助参加人 石井与助 外五名
一、主 文
原告らの請求はこれを棄却する。
訴訟費用は、補助参加によつて生じた部分をふくめて全部原告らの負担とする。
二、事 実
第一、原告らの請求の趣旨及び請求の原因並びに被告の主張に対する答弁。
原告ら訴訟代理人は「昭和二十六年四月二十三日施行の松戸市議会議員選挙の選挙の効力に関する訴願に対し、同年九月十五日被告のした松戸市議会議員選挙はこれを無効とするとの裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。
一、原告らはいずれも昭和二十六年四月二十三日施行の松戸市議会議員選挙の選挙人で、かつこれに立候補し有効投票多数を得たものとして当選と決定されたものである。
二、補助参加人ら六名外一名は右選挙の効力に関し松戸市選挙管理委員会に対し異議の申立をし、同年五月九日同委員会のした決定に対し、さらに被告に訴願をしたところ、被告は同年九月十五日松戸市選挙管理委員会の決定を取り消し、右選挙はこれを無効とする旨の裁決をし同月十六日これを告示した。
三、右裁決理由の要旨は次のとおりである。
(一)、訴願人らの主張する訴願理由は
第一点、李景珍こと青木文雄外三名が選挙権なくして投票した。
第二点、鈴木きよが二重投票をした。
第三点、選挙人名簿に登録のない者一九名に投票させた。
第四点、投票開始前、投票所内にいる選挙人の面前で投票箱の点検を行わずに、投票させた。
第五点、開票立会人を互選によらず松戸市選挙管理委員会において一方的に決定した。
第六点、開票事務に関係のない佐々木保夫外一名が開票場内に立入り投票に手を触れた。
第七点、第一投票所においては投票人数男二、二〇六女二、四八三不在者投票一二〇計四、八〇九に対し投票数は四、八四七票で水増投票がある。
というのである。
(二)、右訴願理由の第一ないし第三点はともに選挙の効力に関する争訟の事由とはならない。
(三)、右訴願理由第四点については、第二投票所においてその事実があり、同第六点については佐々木保夫においてその事実があり、ともに選挙の管理執行に関する規定に違反するものである。この規定違反の事実が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるかどうかについては、投票所及び選挙会場(開票所)事務従事者はもちろん、佐々木保夫においても強くこれを否認するが、(イ)訴願理由第七点の投票人数と投票数が一致しないとの主張と(ロ)松戸市選挙管理委員会書記長八島長衛が投票人数と投票数とにおいて三八票の差があると証明している事実とに徴し、右規定違反がたんに関係者の供述をもつて選挙の公正が害せられなかつたとは断定し難いから、これらの点に関し投票総数と投票人数につき調査するに、(ハ)選挙録記載の投票総数市長選挙二五、三三九票、市議会議員選挙二五、三三〇票に対し、各投票所投票録記載の投票人数の合計は市長選挙二五、三三九市議会議員選挙二五、三三〇で一応符合し、これのみでは不正介入の事実が認められないが、投票録及び開票録の内容検討の結果、不在者投票の不受理決定五、仮投票四については選挙会において受理すべしと決定されていないから、当然投票総数において九票の不足を生ずべきであるにも拘らず、投票人数と投票数とが同一であることと、前記八島長衛が三八票の差のあることを認める証明書を発行している事実から考えると、この選挙における投票録及び開票録記載の数字はきわめて信憑性に乏しいものと認められる、(ニ)さらに被告において選挙人名簿対照係の対照済印及び受付係の受付済印その他関係資料を基礎として調査するに、投票したと認められる者の数は第一投票所四、八五五人、第二投票所三、一九二人、第三投票所一、六四九人、第四投票所一、一七四人、第五投票所三、二九八人、第六投票所二、二〇二人、第七投票所二、六八七人、第八投票所二、五五〇人、第九投票所一、七〇〇人、第一〇投票所一、九二四人計二五、二三一人となり、市議会議員投票数に比し九九票符合しない。従つて第二投票所における投票箱点検の過怠と選挙会場に規定以外の者が入場し投票に手をふれたという選挙管理執行に関する規定違反の事実が選挙の公正を少しも害しなかつたとは断定できない。
(四)、また右訴願理由第五点につき、開票立会人の選定手続は各候補者から立会人となるべき者として届出たものが、同年四月二十一日午前九時までに選挙長の指定した場所に参集しなかつたのであるから、それらの者は互選についての投票権を放棄したものとみなし、選挙長が選挙人名簿に登録された者の中から選挙立会人(開票立会人)三人を選任して選挙会(開票)に立会わせなければならないのであつて、その選任の範囲が狭少であつたこと及び必要数以上の選挙立会人を選任したことは妥当な選任方法とは認められない。
(五)、以上訴願人の主張する諸点に関し審理した結果次の事実が明らかとなつた。すなわち
(1)(イ) 松戸市選挙管理委員会は昭和二十五年十二月二十日現在で整理して作成し直すべき補充選挙人名簿を調製せず、この選挙に使用しなかつた。
(ロ) 同委員会は右補充選挙人名簿を調製しないに拘らず被告に対し四三四人の確定人員ありとして公職選挙法施行令第二十二条第二項による報告をしている。
(2)(イ) この選挙に用いた基本選挙人名簿及び補充選挙人名簿確定後なんびとかによつて三〇五人の者がこの選挙人名簿に違法に追加登録され、かつ
(ロ) これらの者がこの選挙で選挙権を行使した。
(3) 松戸市選挙管理委員会は不在者投票の処理手続を誤り、不在者投票一、〇〇七票中公職選挙法施行令第五十六条及び第五十七条の規定に違反するもの五票、同令第五十条第四項に違反するもの三九二票同条第五項に違反するもの三〇票計四二七票の潜在的無効投票を生ぜしめた。
(4) 選挙人名簿の調製、縦覧、確定等の手続がずさんであつたので、選挙当日二重投票、無権利者投票の事態をひき起し、一八票の潛在的無効投票を生ぜしめた。
(5) 右委員会はこの選挙の管理にあたつて選挙管理委員会において決定すべき選挙執行上の重要案件について十分審議をせず、選挙管理の職責を全うしなかつた。
(六)、松戸市議会議員選挙の結果は最高位当選者の得票数は七〇七、最高位落選者(次点者)の得票数は三五七で、その差は三五〇票であるから、前記選挙の管理執行に関する規定違反がなかつたならば、選挙の結果に異動を生ずるおそれがあることは明白である。
以上が被告の裁決理由の要旨である。
四、しかしながら松戸市選挙管理委員会が右選挙を管理執行するについては、なんら右選挙を無効とすべき程の規定違反の事実はなく、かつ選挙の結果に異動を及ぼすおそれもないのである。
(一)、前記裁決理由の要旨(三)について。
(1) 本件選挙において第二投票所で投票前投票箱の点検を怠つたことはなく、また佐々木保夫が開票所において開票点検中の投票に手をふれた事実はない。この点において裁決は採証の法則に違反し事実誤認におちいつている。仮りに被告が裁決で認めたような事実があり、これが選挙の管理執行に関する規定違反であるとしても、これのみでは選挙を無効とすべき事由とするには足りず、要は右の事実にともない選挙の公正が害せられるべき行為があつたかなかつたかである。この点につき被告は裁決において選挙事務従事者と佐々木保夫の否認が信用できないことを前記訴願理由の第七点の主張事実に帰しているが、この三八票の水増投票があるとの主張は第一投票所に関するものであり、また松戸市選挙管理委員会書記長八島長衛が証明したという三八票の差も第一投票所に関するものであるのに、被告の認めた投票箱点検についての規定違反の事実は第二投票所のものであるから、なんら右規定違反が選挙の公正を害したことの証明とならないのみでなく、第二投票所の投票数と投票人員数を示さず、右八島の証明についてもその内容の真偽を調査せず、関係者の供述を一蹴し、右規定違反が選挙の公正を害しなかつたと断定できないとしたのは不当である。佐々木保夫の行為についてもこれと同様である。
(2) また本件選挙と、これと同時に施行された松戸市長選挙とにおいて、その投票人数と投票総数とが、市長選挙においてはともに二五、三三九で本件選挙においてはともに二五、三三〇となつているのを、その理由を審査せず、本件選挙に不在者投票の不受理分五票と仮投票の受理未決の四票との計九票があるから、人数と票数に九個の差を生ずべきものとしているのは失当である。右九票があるとすれば、むしろ市長選挙と本件選挙との投票人数及び投票数における差九と右九票との関係につき究明すべきことは、なんびとも想到するところであるのにこれについてなんらの審査もせず、本件選挙における投票録及び開票録記載の数字はきわめて信憑性に乏しいとしているのは失当である。
(3) 被告が自ら調査して本件選挙における投票人数を二五、二三一として投票総数二五、三三〇票に符合しないとしているのは事実に反する。本件選挙における投票人数と投票総数とはそれぞれ選挙録記載のとおり二五、三三〇であつて完全に一致しているのである。
(二)、前記裁決理由の要旨(四)について。
本件選挙の選挙立会人選任の手続に多少のかしがあつたとしても、結局正当な選挙立会人が選定され、開票及び選挙会の事務は支障なく執行されたものであるから、実質上選挙の公正はなんら害されることなく、選挙の結果に異動を生ずべきおそれは少しもないから、右手続上のかしは本件選挙を無効ならしめる事由とはならない。
(三)、前記裁決理由の要旨(五)について。
(1) 被告は右裁決理由において、松戸市選挙管理委員会は昭和二十五年十二月二十日現在で整理して作製し直すべき補充選挙人名簿を調製せずこの選挙に使用しなかつたといいながら、基本及び補充各選挙人名簿の確定後なんびとかによつて三〇五人の者がこれら選挙人名簿に違法に追加登録されかつこれらの者が選挙権を行使したと説示しているが、これは前後むじゆんというべきである。事実は市選挙管理委員会は適法に補充選挙人名簿を作製した上、公職選挙法施行令第二十二条による選挙人の数の報告をしているのである。
(2) しかも右三〇五人が違法に追加登録されたとの点は右訴願においてなんな訴願人らの主張に包含されていないに拘らず、被告は訴願の領域から逸脱してこれについて審理裁決したものであり、これは不告不理の原則に違反する。選挙争訟の審判にあたり職権をもつてこのような主張のない部分まで審理することは、他面においては選挙事務管理にまで干渉するものであり、選挙の平穏を害する結果を招き、かえつて選挙の公正を阻害するものというべきであつて、とうてい許されないものである。
(3) 不在者投票の処理手続を誤り四二七票の潛在的無効投票を生ぜしめたというけれども、およそ選挙管理の事務は複雑多岐にわたりかつ規模と設営は広範囲にまたがるため、管理にあたり若干の手落があることは止むを得ない数というべく、その完全を期することはほとんど難きを強いるものである。しかしながら本件選挙に被告のいうようなぼう大な潛在的無効投票を生ぜしめたことはとうてい信じられないところであり、原告らはかかる事実のあつたことは強く否定する。
(4) 選挙人名簿の調製縦覧確定等の手続がずさんで、選挙当日二重投票、無権利者投票の事態をひき起し一八票の潛在的無効投票を生ぜしめたという事実はない。
(四)、前記裁決理由の要旨(六)について。
被告は本件選挙の最高位当選者の得票七〇七票、最高位落選者の得票三五七票でその差三五〇票であるから前記選挙の管理執行に関する規定違反がなかつたならば、選挙の結果に異動を生ずるおそれがあることは明らかであるとしているけれども、その何故であるかは説明するところがない。もし無効投票の総数が当選者のそれぞれの得票数を超過するから全部の当選が無効となるという見解のもとに右結論に到達したものとするならば、これは誤りである。選挙は民意の反映であり、主権者としての国民の主権行使の唯一の手段であり、国家及び地方公共団体における政治の基盤をなすものであるから、一票の投票といえども貴重であつて、いわんや多数有効投票に対してはこれを尊重しその権威を認めなければならない。しかるに少数無効投票のため有効である多数の投票の全部を無に帰せしめ、わずかなかしのために大多数の民意を抑圧するが如きは民主主義にそむき、憲法に違反する。このような場合は無効投票は本選挙の立候補者七四名に均当配分してその得票数より控除した結果によつて当落を決すべきものであつて、かくするときはなんら本件の無効投票の存在は選挙の結果に影響を及ぼすものではない。殊に昭和二十七年八月十六日法律第三〇七号公職選挙法の一部を改正する法律においては、潛在的無効投票の処理方式が改正され(同法第二百九条の二)当選の効力に関する争訟において潛在的無効投票が判明したときは同法第九十五条(当選人)の規定の適用に関する各候補者の有効投票の計算についてはその開票区毎に各候補者の得票数から当該無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差し引くこととされ、右改正部分は本件選挙にも当選争訟としては適用されるべきものである。本件争訟は当選の効力に関するものではなく、選挙の効力に関するものではあるが、被告が選挙無効と断定した実質上の理由は、その示す票数の潛在的無効投票を生ぜしめたがため、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるという点に帰すのであるから、仮りに被告主張のとおりの潛在的無効投票が存在したとしても、これを改正法によつて処理する場合は当選の効力に影響を及ぼすことなく、従つて選挙の結果に異動を及ぼすおそれはないことになる。
五、よつてここに被告のした右裁決の取消を求める。
六、被告が本件において主張する規定違反の事実はすべて否認する。被告主張の二(一)(3)につき、被告は三〇五名が選挙人名簿に違法に追加登録されたというが、基本選挙人名簿に何人、補充選挙人名簿に何人がそれぞれ登録されたと主張するのか不明である。三〇五名が登録されているとすれば、これは名簿確定前に登録されたものであり、市選挙管理委員会が被告にした報告が誤つていたというだけのことである。また仮りに被告主張のように本件投票録により選挙人名簿登録者とされるものが合計三〇、四七一名であるとしても、これは市選挙管理委員会が被告に対してした報告と実際登録者とが一致しないというだけである。いずれにしても本件選挙の結果影響はない。右(3)の(イ)(ロ)(ハ)の事実はいずれも被告がさきに裁決において選挙の効力に関する争訟の事由とならないと判断したものであつて、これを本訴において自ら主張するのは失当である。仮りにこのような事実があつたとしても、いずれも選挙無効の理由となるものではない。同じく二(六)(1)につき、被告は第一投票所において三八票多く投票録に作為記載したと主張しているが、投票管理者がこのようなことを故意にするはずがない。もし実際三八票多く投票録に記載があるとすれば、それは投票管理者の誤記にすぎない。もとより選挙の結果に影響がない問題である。なお本件選挙における最高位当選者及び最高位落選者(次点者)の得票がそれぞれ被告主張のとおりであり、その差が三五〇であることは認める。
第二、被告の答弁及び主張
被告は原告らの請求を棄却する、訴訟費用は原告らの負担とするとの判決を求め答弁及び主張として次のとおり述べた。
一、原告ら主張事実中第一の一ないし三はこれを認める、その余は否認する。本件選挙の選挙人名簿に三〇五人が違法に追加登録されたとの点は具体的には訴願理由にはないけれども訴願の全趣旨からこれをうかがい得るから被告が訴願の裁決においてこれを認定したのは少しも差支えはない。
二、本件選挙においては松戸市選挙管理委員会は、被告が裁決において認定したものを含めて、次のような選挙の管理執行に関する各種の規定に違反している。
(一)、選挙人名簿に関する違法。
(1) 基本選挙人名簿(原本)調製の違法。基本選挙人名簿の調製についてはこれを性別すなわち男女別に作成したときは男女各一冊ずつ都合二冊の原本が存在することは当然であるが、そうでない場合は男女混合の原本として唯一冊が存在すべき筋合である。しかるに本件選挙に関し松戸市選挙管理委員会が作成し供用した基本選挙人名簿は各投票所一カ所毎に男女混合のもの二冊を作成してあり、そのいずれが原本であるか不明である。これは名簿調製についての原則に反し、かかる名簿を選挙に供用したことは違法である。
(2) 整理して作製し直すべき補充選挙人名簿を調製しない違法。公職選挙法(以下たんに法という)第二十八条第二項第一項但書によれば、市町村の選挙管理委員会は、基本選挙人名簿確定の日の前日に補充選挙人名簿に登録されていた者で次年の基本選挙人名簿に登録されることができないものがあるときは、その者に関する部分について、補充選挙人名簿を整理して作製し直さなければならないのである。松戸市においては昭和二十五年度の基本選挙人名簿確定後で、かつ昭和二十六年度の基本選挙人名簿調製の基準日である昭和二十五年九月十五日以降において、同年十月五日千葉県教育委員選挙、同年十二月十三日千葉県知事選挙及び参議院議員補欠選挙がそれぞれ施行されたので、その際それぞれ補充選挙人名簿が調製されていたものであるから、松戸市選挙管理委員会としては同年十二月二十日現在で前記規定に従い補充選挙人名簿を整理して作製し直さなければならないのに、これを調製せず、従つてまたこれを本件選挙に使用しなかつた違法がある。しかるに市選挙管理委員会は昭和二十六年一月十九日付で被告に対し補充選挙人名簿による確定人員四三四名があると公職選挙法施行令(以下たんに令という)第二十二条第二項による報告をしているが、この報告は虚偽といわざるを得ない。
(3) 選挙人名簿の調製がずさんで、名簿確定後三〇五名ないし六八六名が違法に追加登録されている。市選挙管理委員会がこの選挙に用いた基本選挙人名簿はその調製がずさんきわまるもので、公職選挙法施行規則第一条の定める形式を軽視し、殊にその巻末記載の如きは、通常余白があるときは「以下余白」又は斜線を引いて処理するのが例であるのにこれをせず、たんに名簿の裏表紙の内側に巻末記載をしているのである。市選挙管理委員会は被告に対し昭和二十六年一月十九日付及び同年四月二十日付で基本選挙人名簿登録の確定人員二八、二六五名、補充選挙人名簿登録の確定人員一、五二〇名とそれぞれ報告しているので、その確定人員は合計二九、七八五名であるはずである。しかるに実際に各選挙人名簿に登録された人員をくわしく検討し、かつ前記(2)の整理して作製し直すべき補充選挙人名簿登録の人員という四三四名がなんらかの形で実際に名簿に登録されているものと仮定しても、なお三〇五名多く登録されている。これは名簿確定後違法に追加登録されたものというべきである。また本件選挙の投票録による選挙人名簿登録者数とされるものは、第一投票所六、一七七名、第二投票所三、九八二名、第三投票所一、八九三名、第四投票所一、五四九名、第五投票所四、一二五名、第六投票所二、五八五名、第七投票所三、一六二名、第八投票所二、八七四名、第九投票所一、九六二名、第十投票所二、一六二名合計三〇、四七一名で右確定人員より六八六名多くなつている。この人員は名簿確定後違法に追加登録されたものというべきである。これらの追加登録された者がなんびとであるかということは本来名簿の調製ずさんのため判明せず、従つてその者が選挙権を行使したかどうかも判明しない。また市選挙管理委員会は昭和二十六年四月二十日付で被告に対し地方自治法第七十四条第七十六条により選挙権を有する者の五十分の一及び三分の一の数を報告しているが、これらの数による逆算によつても、前記各数字はいずれもその誤差の範囲内にない。これ市選挙管理委員会は名簿の調製につきその管理執行が適正でなく、法規に違反したものである。その結果本件選挙にあたつて二重投票、無権利者投票等の事態をひき起した。
例えば
(イ) 選挙人鈴木きよは病気を理由として不在者投票をしているのに、選挙の当日第八投票所において同人に対し再び投票させ、
(ロ) 選挙の当日第二投票所において選挙人名簿に登録のない高橋四郎以下一三名に入場を許し、投票の拒否権を行使せず、仮投票の手続もとらずに投票させ、
(ハ) 本来選挙権のない第三国人李景珍こと青木文雄以下四名に投票させた。
(4) 名簿縦覧手続の違法。前記基本選挙人名簿と題する各簿冊の裏表紙の内側には巻末記載としてその縦覧場所につきいずれも松戸市役所において縦覧せしめたとの記載があるが、事実は右市役所の各出張所において縦覧をさせたものであり、場所についての告示と違つた取扱いをした違法がある。
(二)、選挙事務従事者選任の違法。
(1) 市選挙管理委員会が自ら選任しない違法。
選挙事務従事者の任命は法規上当該選挙管理委員会もしくはその長が選任すべきであるのに、本件の選挙についての従事者は、投票立会人及び選挙立会人(開票立会人)以外は、すべて選挙に関係のない松戸市助役があげてこれを選任し、市選挙管理委員会もしくはその長が自らこれを選任しない違法がある。
(2) 選挙立会人選任の違法。
本件選挙においては開票の事務は選挙会場において選挙会の事務に合せて行つたものであるが、その選挙立会人となるべき者については法第七十六条同第六十二条第八項によつて選挙長が選挙人名簿に登録された者の中から選挙立会人三人を選任して選挙会(開票)に立会させるべきであるのに、本件においてはそうでなく、必要数以上の選挙立会人を選任したのは失当であり、またその前選挙立会人の互選の場所及び時刻については互選の当日までなんら通知をせず、その職責を全うしなかつた違法がある。
(三)、不在者投票の管理についての違法。
松戸市選挙管理委員会は不在者投票の処理にあたり、関係法規の研究を怠り、選挙人に対する指導とその処理手続を誤り、投票録による不在者投票一、〇七七票中多くの潛在的無効投票を生ぜしめた。
(1) 令第五十六条、第五十七条によれば、不在者投票の事由に該当する選挙人で「歩行著しく困難な者」及び「令五十五条第二項の規定による不在者投票管理者の管理する投票記載場所で投票できる者」に該当しない者は、住所地の市町村の選挙管理委員会委員長である不在者投票管理者の管理する投票記載場所か現在地の市町村の選挙管理委員会委員長である不在者投票管理者の管理する投票記載場所で自ら投票の記載をしなければならない。しかるに選挙人長谷川きよ外四名の五名は不在者投票管理者の管理する投票記載場所で投票の記載をしないのに、市選挙管理委員会は前記規定に違反してこれを受理しているのは違法である。
(2) 令第五十条第四項の規定によれば、歩行著しく困難である選挙人が現在する場所で不在者投票をしようとするときは、その旨を証明し同居の親族により、文書で、投票用紙及び封筒の請求並びに現在地で投票したい旨の申立をしなければならないのであるが、第一投票区において荒井太平外六二名、第二投票区において染井しも外四七名、第三投票区において鈴木祝二外一六名、第四投票区において飯田よし外八名、第五投票区において杉浦みつ子外二名、第六投票区において清宮きみ外一四名、第七投票区において石井はる外二八名、第八投票区において軍司さと外六三名、第九投票区において高橋いま外六二名、第十投票区において宮田政子外八〇名計三九二名は、いずれも右文書による請求及び申立をしないのに市選挙管理委員会は右規定に違反し、これらの者に投票用紙等を交付しその不在者投票を許したのは違法である。
(3) 令第五十条第五項によれば、令第五十五条第二項に規定された職にある者は、その属する選挙人に代つて不在者投票用紙等の請求をすることができることは明らかであるが、千葉県立松戸保健所の長はこのような権限がない(被告は右保健所を令第五十五条第二項の病院に指定したことはない)しかるに右保健所長が第六区投票区において選挙人小林元吉外二九名に代り不在者投票用紙等の請求をしたのに対し、市選挙管理委員会は前記規定に違反してこれに不在者投票用紙等を交付し各選挙人に交付せしめて不在者投票をさせたのは違法である。
(4) 本件の不在者投票封筒には法所定の記載をしないものが多数ある。
(四)、投票箱点検を怠つた違法。
本件選挙にあたり第二投票所においては投票開始前投票所内にいる選挙人の面前で投票箱を開きその中に何も入つていないことを示すべき手続を行わないで投票を開始したものであり、これは令第三十四条に違反する。
(五)、選挙会場(開票所)に資格のない者を入場させて投票に手をふれさせた違法。
本件選挙においては選挙会場(開票所)に選挙事務従事者でなく、なんら入場の資格のない佐々木保夫外一名を入場させ、点検中の投票に手をふれさせたのは違法である。
(六)、投票人数より投票数を多からしめた違法。
(1) 第一投票所においては実際の投票人数男二、二〇六、女二、四八三、不在者投票人数一二〇計四、八〇九であるのに、投票録には投票数は四、八四七票とされており、その間三八票多く投票があつたように記載作為しているのは、とうてい適正の管理執行ということを得ない。
(2) 投票総数と投票人数につき選挙録記載の投票総数は二五、三三〇であるのに対し、各投票所投票録記載の投票人数の合計は同様二五、三三〇で、両者は一応符合しているが、投票録及び選挙録の内容を検討すれば、投票録記載の投票人員中不在者投票の不受理の決定を受けたもの五、仮投票の四については選挙会で受理決定がされていないから当然九票不足すべきなのに、人数と票数が同一なのは首肯し難い。これと右(1)の投票人数と投票総数の差三八があるということとをあわせ考えれば、この選挙の投票録及び開票録の数字は信憑性がない。また投票所入場券の処理方法がずさんで全く統一を欠き全投票所を通じ入場券によつては投票人数の算定は不可能である。被告が選挙人名簿対照係の対照済印、受付係の受付済印その他関係資料を基礎として調査したところによれば、投票したと認められる者の数は第一投票所四、八五五、第二投票所三、一九二、第三投票所一、六四九、第四投票所一、一七四、第五投票所三、二九八、第六投票所二、二〇二、第七投票所二、六八七、第八投票所二、五五〇、第九投票所一、七〇〇、第十投票所一、九二四計二五、二三一人で投票録及び選挙録の記載数字にくらべ九九符合せず、投票人数より投票総数の方が九九多いという結果を示している。この選挙の管理執行が適正でなかつたことは明らかである。
三、本件選挙において最高位当選者とされた者の得票数は七〇七、最高位落選者(次点者)の得票数は三五七でその差はわずかに三五〇である。もし本件の選挙の管理執行につき前記のような各般の規定違反がなく、すべて適法に行われたとすれば選挙の結果は違つたものになつたことは明らかである。すなわち本件選挙におけるその管理執行に関する違法はこれを綜合して考察すれば選挙の結果に異動を及ぼすおそれは十分といわなければならない。従つて右選挙は無効とすべきものであり、これと同旨の被告の裁決は相当である。
第三、補助参加人らの主張。
補助参加人ら訴訟代理人は、補助参加人らは本件訴訟の基本たる裁決の訴願人で本件訴訟の結果につき利害関係を有するから被告を補助するため本件訴訟に参加すると申立て、次のとおり主張した。すなわち本件選挙の管理執行については被告の主張のような各種の規定違反がある外、本選挙においては各投票所とも令第三十四条に違反して投票開始前投票箱の点検を怠つた事実がある。これらの各事実はいずれも選挙の公正を害し、被告主張のとおり選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるから、本件選挙は無効とされるべきものである。
第四、証拠関係
<省略>
三、理 由
一、原告らがいずれも昭和二十六年四月二十三日施行の松戸市議会議員選挙の選挙人で、かつこれに立候補し、有効投票多数を得たものとして当選と決定された者であること、補助参加人ら外一名が右選挙の効力に関し松戸市選挙管理委員会に対し異議の申立をし、同年五月九日同委員会のした異議却下の決定に対しさらに被告に訴願をしたところ、被告が同年九月十五日松戸市選挙管理委員会の決定を取り消し、右選挙はこれを無効とする旨の裁決をし、同月十六日これを告示したこと、右裁決理由の要旨が原告ら主張の第一の三のとおりであることはいずれも本件当事者間に争いがない。
二、原告らは右裁決を不服としてこれが取消を求めるのに対し、被告及び補助参加人らは本件選挙には被告が訴願の裁決において認定したものを含めて選挙の管理執行に関する各般の規定違反の事実があり、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるから、本件選挙は無効たるべきものであり、これと同旨の裁決は結局相当であると主張するから、以下順次この点につき判断する。
(一) 選挙人名簿に関する違法の主張について(被告主張第二の二(一))。
(1) 証人加瀬重雄の証言及び検証(基本選挙人名簿二〇冊)の結果をあわせれば、松戸市選挙管理委員会において作製し本件選挙に供した基本選挙人名簿は各投票区(全部で一〇投票区)ごとに二冊があり、その各冊の表紙には「男」もしくは「女」と記載されているのであるが、その内容はどちらにも男女ともに記載され、両者おうむね同一の選挙人を対象としたものであり、そのいずれが原本であるかを認め難い状態にあることを認めることができる。基本選挙人名簿は選挙人のなんびとであるかを明らかにするものであり、これに登録されない者は原則として選挙権を行使することができないものであり、選挙執行の基本となるものであつて、関係書類中最も重要であることは多言をまたない。この名簿は各投票区ごとに調製するものであるが、同一投票区内の選挙人を男女各別に登録し各別の名簿を調製することは差し支えないものと解すべきであるが、同一内容のものを二冊作製することはなんらその必要がないのみならず、もし右両者間の記載に不一致がある場合にはいずれが真実のものであるかを判定し得ないことになるのであるから有害である。右証言及び検証の結果によれば本件基本選挙人名簿は大体において男女各冊につき記載内容が一致するけれども、その訂正抹消等の個所については両者の間に相当相違があり、一の名簿に登録ある選挙人で他の名簿にない者が相当数存することは明らかであつて、たんに表紙に男とあるものが男の選挙人についての原本、女とあるのが女の選挙人についての原本と解することもできない。このような結果は結局同一事項について原本たるべきものを一にしなかつたことに由来するのであり、これ市選挙管理委員会が選挙人名簿調製についての根本原則を誤つたものであり、結局選挙の管理執行に関する規定に違反するものといわざるを得ない。
(2) 証人小泉正夫、柴田周蔵、鈴木一郎、加瀬重雄の各証言と検証の結果とをあわせ考えると、松戸市選挙管理委員会は、昭和二十六年度の基本選挙人名簿確定の日の前日に補充選挙人名簿に登録されていた者で右の基本選挙人名簿に登録されることができないものに関する部分について公職選挙法第二十八条第二項によつて補充選挙人名簿を整理して作成し直すことをせず、従つて同選挙管理委員会には右の規定に従い整理して作成し直した補充選挙人名簿が存しなかつたことを認めることができる。もつとも、乙第一号証によると、松戸市選挙管理委員会は昭和二十六年一月十九日附で(乙第一号証には昭和二十五年一月十九日とあるが、これに押してある千葉県の受付印が二十六年一月二十日附であることからみて、昭和二十六年一月二十日の誤記たること明らかである)、被告千葉県選挙管理委員会にたいして、名簿確定人員を、基本選挙人名簿二八、二六五人、補充選挙人名簿四三四人と報告していることが認められ、乙第六号証の一、二と証人加瀬重雄の証言によると、松戸市選挙管理委員会は被告委員会にたいして、昭和二十五年十二月二十一日附で、選挙人名簿確定人員を二八、二六五人と報告したので、被告委員会から督促されて前記乙第一号証の書面による報告をしたことが認められるが、この事実はこれによつて前段の認定をくつがえして、前述の補充選挙人名簿の整理作成し直しがなされたことを認めるに十分でない。ところで松戸市において昭和二十五年十月五日には、千葉県教育委員選挙が、同年十二月十三日には、千葉県知事選挙及び参議院議員補欠選挙が、それぞれ行われたこと及びこれら選挙施行に当り補充選挙人名簿が調製されたことは、本件における口頭弁論の全趣旨から推認されるところである。従つて、昭和二十六年度の基本選挙人名簿すなわち本件選挙に供用された基本選挙人名簿の確定の日たる昭和二十五年十二月二十日の前日において、右補充選挙人名簿に登録されている者で、昭和二十六年度の基本選挙人名簿に登録されることのできない者があつたことは、前記選挙の際の補充選挙人名簿調製の時期と右基本選挙人名簿調製の基準時との関係から十分に推認し得るところである。従つて、松戸市選挙管理委員会は公職選挙法第二十八条に従つて、右補充選挙人名簿登録者中昭和二十六年度基本選挙人名簿に登録されることができないものに関する部分につき補充選挙人名簿を整理して作成し直すべかりしものであり、従つて本件選挙は、基本選挙人名簿、前規定に従い整理して作成し直した補充選挙人名簿及び本件選挙に際して調製した補充選挙人名簿にもとづき執行すべかりしものである。しかるに、前記のごとく、整理作成し直した補充選挙人名簿なしで選挙を執行したことは、選挙の管理執行に関する規定に違反したものというべきである。
(3) 右乙第一号証、成立に争いのない乙第二号証の一、二の各記載証人鈴木一郎、加瀬重雄の各証言、検証(基本、補充各選挙人名簿及びその各抄本)の結果をあわせると、松戸市選挙管理委員会がこの選挙に用いた選挙人名簿は一〇投票区の各区につき基本選挙人名簿男女各一冊、補充選挙人名簿男女各一冊合計四〇冊及び選挙に際して用いたその各抄本四〇冊があるのであるが、そのうち右各基本選挙人名簿の記載を見ると、随所に加除訂正の個所があり、しかもその場合になんら修正の理由年月日の記載及び責任者の職印の押捺がなく、なんびとがいついかなる理由で加除訂正をしたのか不明であつて、しかも前記のように同一投票区の基本選挙人名簿男女各冊相互間においても互いに相違があり、また一連の番号も前後不ぞろいで一貫性を欠くもの多く、名簿各冊の途中にある頁の余白には斜線を引くとか「以下余白」と記載するとかのことがなく、かえつて右一連番号の枝番号を附して選挙人を登録しているものがあり、その巻末記載はたんに裏表紙の内側にあるからその前に用紙をさし加えることも不可能ではない状態にあり、総じてその調製は公職選挙法施行規則第一条の様式を軽視し概してずさんであり、果して真実昭和二十五年九月十五日現在によつて調査の上作製し同年十二月二十日をもつて確定せしめたものであるかどうか疑問なきを得ない状態であること、しかるに市選挙管理委員会は被告に対し昭和二十六年一月十九日附で基本選挙人名簿の確定人員は二八、二六五名である旨、同年四月二十日附で補充選挙人名簿の確定人員は一、五二〇名である旨それぞれ報告していること(従つてこの合計は二九、七八五名である)、しかるに本件の基本選挙人名簿及び補充選挙人名簿の実際登録人員を調べると基本選挙人名簿登録人員二八、九四二名補充選挙人名簿登録人員一、五八二名合計三〇、五二四名であること、また投票録記載の選挙人名簿登録人員とされるものは被告主張のように一〇投票所合計で三〇、四七一名であること、さらに市選挙管理委員会は昭和二十六年四月二十日附で被告に対し地方自治法第七十四条、第七十六条により選挙権を有する者の五〇分の一の数は五八〇、三分の一の数は九、六二九であると報告していることを認めることができる。右選挙人名簿登録の実数三〇、五二四と市選挙管理委員会の前記報告の数二九、七八五との差は七三九となるのであるが、仮りに前記(2)の整理して作製し直した補充選挙人名簿の人員として報告された四三四名がなんらかの形で実際には登録されていると見れば結局三〇五が報告より多くなるという関係にあり、また投票録記載の名簿登録人員三〇、四七一と前記報告との差は六八六となることは明らかであり、さらに右地方自治法による報告から逆算すればその誤差を含めて当時の選挙権を有する者の総数は二九、〇〇七ないし二九、〇〇九となり、前記数字のいずれとも一致せず、これと実際登録人員との差は五一五ないし五一七、投票録記載の登録人員との差は四六二ないし四六四となる。原告らは市選挙管理委員会の右各報告は集計の誤算であつて、実際の名簿登録人員が正しいというけれども、右報告は名簿確定の後になされるものであつて、市選挙管理委員会がなんらの根拠なくして前記のような数字を算出報告することはあり得ないと認められ、集計の誤算とすればあまりにもその差が大きすぎ、とうていしかく信ずることはできない。しからばこの関係は選挙人名簿確定後さらになんびとかによつて右のような三〇五名ないし六八六名が追加登録されたことを示すものという外はなく、その名簿調製のずさんのほどを考えればこのような事態のあり得ることは十分推認し得られるところである。これらの人員はたんに数として指摘し得るに止まり、その個々のなんびとが名簿確定後の登録者であるかは、前記のような名簿調製の状況から見てとうていこれを確認し得ないところである。これを要するに松戸市選挙管理委員会は選挙人名簿という選挙の管理執行にあたつて最も基本となるべき制度につき、法規に違反しその調製適正を欠き名簿確定の趣旨を没却しために果して選挙人の数がいくらであるか、なんびとが選挙人であるかなんびとが選挙権を行使し得るかにつき明確な基礎を欠くにいたつたものでその違法なることは明らかである。
原告らは被告が裁決にあたつてこの点を審理判断したのは訴願の理由にない事項にもとずいて裁決したもので違法であると主張するが訴願の趣旨は選挙の効力を争うにあるのであつて、その当否を決するために訴願庁たる被告が行い得る調査の範囲は、選挙の有効無効を判断するに必要な事項全般に及ぶものと解すべく、これによつて不当に選挙に干渉するというものではないから、この点において被告の裁決が違法であるということはできない。
成立に争いのない乙第九号証の一ないし十三の各記載に証人鈴木一郎、加瀬重雄、鈴木きよ、高橋四郎、青木文雄こと李景珍、住田{石乙}岩こと朱{石乙}岩、金子金蔵こと金竜雲の各証言及び検証の結果により認められるように、被告主張の(イ)選挙人鈴木きよの二重投票の事実、(ロ)名簿に登録のない高橋四郎ら十三名に投票させたこと、(ハ)本来選挙権のない李景珍ら四名に選挙権を行使させた事実等を生じたことは、市選挙管理委員会の選挙人名簿に関する管理執行の規定違反から生じた一部の事例と認めるべきである。原告らはこれら(イ)(ロ)(ハ)の事実は被告が裁決において自ら選挙無効の原因となるものでないと判断しながら本訴においてこれを主張するのは失当であると主張するけれども、被告のこの点の主張はそれ自体選挙無効の原因としてではなく、前記のような名簿調製に関する違法の及ぼす結果の事例として主張するに過ぎないことはその主張自体によつて明らかである。
(4) 証人小泉正夫、鈴木一郎、加瀬重雄の各証言及び検証(基本及び補充各選挙人名簿)の結果によれば、本件選挙に用いられた基本及び補充各選挙人名簿の各縦覧場所は各名簿の巻末記載によれば全部松戸市役所となつているが、その告示は第一、第二、第四ないし第六投票区の分のみが右市役所で、第三投票区の分は同市役所矢切出張所、第七投票区の分は同馬橋出張所、第八投票区の分は同東部出張所、第九投票区の分は同高木第一出張所、第十投票区の分は同高木第二出張所でそれぞれ縦覧せしめることとなつており、事実もそのとおりであつたのであるが、名簿巻末の記載と実際とが一致しないのは公職選挙法施行規則第一条に違反するものということをまぬかれない。
(二) 選挙事務従事者選任の違法の主張について(被告主張第二の二(二))。
(1) 成立に争いのない乙第七号証の記載に証人加瀬重雄の証言をあわせると、本件の選挙については投票及び開票(選挙会)の事務については、松戸市長職務代理者松戸市助役石橋与市において市選挙管理委員長の要請があつたからとして、全十カ所の投票所の投票管理者、同職務代理者をはじめ庶務主任(第一投票所のみ)、庶務係、到着番号記入係、受付係、名簿対照係、投票用紙交付係、場内整理係、また選挙会場(開票所)関係では選挙長、同代理者をはじめ主任、庶務係、得票計算係、番号記入係、再調査係、受付係、連絡係、場内整理係、開票係等、投票立会人及び選挙立会人(開票立会人)以外の一切の事務従事者を定めていることは明らかである。右のうち投票管理者、選挙長もしくは同代理者とされている者の中市選挙管理委員会の委員会の委員長及び委員があり(証人柴田周蔵の証言によれば右選挙管理委員会委員長は小泉正夫、委員は相川慶太郎、柴田周蔵、林菅一郎である)、その他の事務従事者中に市選挙管理委員会事務局の職員がある(証人八島長衛、白井源治の証言によれば第一投票所の庶務主任で選挙会場の主任八島長衛は市選挙管理委員会書記長、第二投票所庶務係白井源治は同書記であつた)ことによつては、市選挙管理委員会が自らこれを選任したものであることをうかがうには、足りない。その他右認定に反する特段の証拠はない。選挙にあたり投票管理者開票管理者選挙長及びそれらの職務代理者はあらかじめ当該市町村の選挙管理委員会においてこれを選任すべく、これらの者にともに事故があり又はともに欠けた場合は選挙管理委員会の委員長が選挙管理委員もしくは書記の中から臨時に職務管掌する者を選任すべきことは法第三十七条、第六十一条、第七十五条、令第二十四条、第六十七条、第八十条のそれぞれ明定するところであり、その他の事務従事者(投票立会人及び選挙立会人を除く)については法令上特段の規定はないから法第五条によつて当該選挙に関する事務を管理する市町村選挙管理委員会が選任すべきものと解するのを相当とするしかるにこれらの者の選任を市選挙管理委員会又はその委員長が自らせずこれをあげて他の者の決するところに一任するが如きは、選挙に関する事務を選挙管理委員会に負わしめている法の趣旨を没却し、選挙の管理執行に関する規定に違反するものであることは明らかである。
(2) 証人加瀬重雄、小泉正夫、八島長衛、神田賢勇の各証言補助参加人笹森登美夫、山本菊代、木下辰平各尋問の結果をあわせ考えると、本件選挙においては開票の事務は選挙会場において選挙会の事務とあわせて行つたものであるがその選挙立会人については各候補者からあらかじめ選挙立会人となるべき者の届出がありその数、五、六十名に及んだのであるが、選挙長はその互選をするべき場所と日時は別に各自に追つて通知する旨を約しておきながら、たんに告示をしただけで右通知をしなかつたこと、右互選の日時場所にはその届出のあつた者が一人も参集しなかつたので選挙長の側においてくじで届出のあつた者の中から十人を選んでこれを選挙立会人としたものであることが明らかである選挙立会人となるべき者が十人を超えるときは、届出のあつた者において十人を互選すべきものであり、その互選の日時及び場所はあらかじめ選挙長において告示しなければならないことは法(昭和二十七年八月十六日法律第三〇七号による改正前のもの)第七十九条、第六十二条の定めるところである。この場合告示の外各自に通知することは法の要求するところではないが、選挙長において各自にこれを通知すべきことを約す場合は、一般に告示に注意するよりも通知に期待することはみやすいところであるから、右互選の日時場所に届出のあつた者が一人も参集せず、互選の機会を失つたことについては選挙長にもその責がないとはいえない。しかしこれをもつて選挙の規定に違反したものとすることはできない。ただ立会人たるべき者が告示に拘らず参集しなかつたのであるから、当該選挙人名簿に登録された者の中から三人を選任して選挙会(開票)に立会させるべきものであることは前記各条により明らかであるしかるにこれをせず選挙長が自らくじで届出のあつた者の中から一〇人を選任したのは失当というべきもので、この点において規定違反をまぬがれることはできない。
(三) 不在者投票管理の違法の主張について(被告主張第二の二(三))。
証人加瀬重雄の証言により成立を認めるべき乙第四号証の一、二、成立に争いのない乙第八号証の各記載に証人加瀬重雄、鈴木一郎、八島長衛、白井源治、大山清の各証言、補助参加人綿引惣介、木下辰平各尋問の結果及び検証の結果をあわせると、本件の選挙について市選挙管理委員会においては不在者投票に関する法規の研究が足りずそのために選挙人に対する指導と投票の処理手続をあやまり、多くの規定違反をおかしていること、その内容として次のようなものがあることを認定することができる。
(1) 令第五十六条、第五十七条によれば、不在者投票の事由に該当する選挙人で「歩行著しく困難な者」及び「令第五十五条第二項の規定による不在者投票管理者の管理する投票記載場所で投票できる者」に該当しない者は、住所地の市町村の選挙管理委員会委員長である不在者投票管理者の管理する投票記載場所か現在地の市町村の選挙管理委員会委員長である不在者投票管理者の管理する投票記載場所で、自ら投票の記載をしなければならないのであるから、本件の第一区投票区において選挙人長谷川きよ子以下五名は令第五十五条第一項の規定による不在者投票管理者たる松戸市選挙管理委員会委員長の管理する投票所で記載させるべきであるのに、自宅においてこれをさせている外、他にも同様の事例があること。
(2) 令第五十条第四項によれば歩行著しく困難である選挙人が現在する場所で不在者投票をしようとするときは、その旨を証明し、同居の親族により文書で投票用紙及び封筒の請求並びに現在地で投票したい旨の申立をしなければならないのに、第一投票区において荒井太平外三〇名、第二投票区において染井しも外三〇名第三投票区において鈴木祝三外二〇名、第四投票区において飯田よし外一〇名、第五投票区において杉浦みつ子外五七名、第六投票区において清宮きみ外一二名、第七投票区において石井はる外三一名、第八投票区において軍司さと外六一名、第九投票所において高橋いま外二一名、第一〇投票所において宮田政子外八一名以上合計三六三名についてはいずれも右文書による投票用紙等の請求及び現在場所で投票する旨の申立がないのにかかわらず市選挙管理委員会委員長はこれらの者に投票用紙等を交付しそれぞれその現在場所における投票を許したこと。
(3) 令第五十条第五項によれば令第五十五条第二項に規定された職にある者はその属する選挙人に代つて不在者投票用紙等の請求をすることができることは明らかであるが、かような権限のない者の請求は許されないところ、千葉県松戸保健所は被告によつて右令第五十五条第二項の病院に指定されていないのに同保健所の長は第六投票区において小林元吉外三〇名のため右請求をしたのに対し、市選挙管理委員会委員長はこれに投票用紙等を交付し、右選挙人等をして同保健所において不在者投票をさせたこと。
(4) その他不在者投票封筒には法令に従つて所定の記載をしなければならないのにその記載のないものが相当数存在すること。
以上はいずれも不在者投票について選挙の管理執行に関する規定に違反したものといわなければならない。
(四) 投票箱点検を怠つた違法の主張について(被告主張第二の二(四)及び補助参加人主張の第三)。
証人鈴木一郎の証言により成立を認めるべき乙第五号証の記載、証人鈴木一郎、加瀬重雄、相川慶太郎、中台隆治、柴野竹次郎、白井源治、山口角次郎(但し後記採用しない部分を除く)の各証言をあわせると、本件選挙において松戸市南部小学校に設けられた第二投票所においては、午前七時の投票開始前投票管理者である相川慶太郎が午前七時五、六分前頃同所に到着したところ、すでにそれ以前七時十分前位に投票管理者職務代理者山口角次郎が投票立会人柴野竹次郎、中台隆治、松戸弁吉らとともに投票箱を点検し終つたのであること、右は投票開始時刻の前であつて選挙人は入口附近までは来ていたが投票所の中には入らず従つて投票管理者において選挙人が投票する前に投票所内にいる選挙人の面前で投票箱を開きその中に何も入つていないことを示すべきことを規定した令第三十四条の手続をとらなかつたことを認めるに十分である。右認定に反する証人山口角次郎の証言は採用しない。右令第三十四条の趣旨は第一審に投票する者がその投票を投票箱に投入する前に投票箱が空であつて、あらかじめ不正の投票が入つているようなことのないこと、その他箱の中に何も入つていないことをその者をはじめすでに投票所内に来ている選挙人に示し、もつて選挙の公正を担保しようとするための重要な規定であることは明らかである。右投票立会人が選挙人であるから同人らとともにした投票箱の点検が右規定の手続をみたすと解するのは相当でない。すなわち右第二投票所において投票箱点検に関する右規定違反がある。
補助参加人らは、右第二投票所以外にも、他のすべての投票所において同様の規定違反があると主張するけれども、証人井上恭一の証言及びこれにより成立を認めるべき丙第八号証の記載によつては第五投票所において右投票箱点検を怠つた事実を認め難く、証人柳沢公人の証言によれば第一投票所においては正規の手続を履行したことは明らかで、その他に特に反対の証拠がないから結局右第二投票所以外においては適法に投票箱点検の手続がとられたものと推認すべきものである。
(五) 選挙会場(開票所)に資格のない者を入場させて投票に手をふれさせた違法の主張について(被告主張第二の二(五))。
証人佐々木保夫、高橋道夫、八島長衛の各証言によると本件選挙において開票当日である昭和二十六年四月二十四日午前十一時頃選挙会場(開票所)に正当な入場資格のない佐々木保夫及び高橋道夫の両人が入場し、開票事務従事中の従事者に立ちまぢり、殊に高橋は約三〇分にわたり投票用紙の整理にあたりまた佐々木も投票に手をふれたことがあり、その後選挙会場主任八島長衛に発見されて場外に出されたことを認めることができる。選挙会場(開票所)に資格のない者がみだりに立入ることの禁ぜらるべきことは法第七十四条、第五十八条により明らかであり、いわんやこの者が開票中の投票に手をふれることを得ないことも右規定の趣旨から見て当然である。右同人らの入場は特に選挙長が悪意でこれを許したものと認めるべき証拠はないけれども、選挙長はこのような事態を防止すべき責任ある者であつて、その意味においてなお選挙の規定に違反したものというをまぬかれないところである。
(六) 投票人数より投票数を多からしめた違法の主張について(被告主張第二の二(六))。
(1) 証人八島長衛の証言により成立を認めるべき丙第六号証の記載、証人小泉正夫、八島長衛、鈴木一郎、神田賢勇の各証言補助参加人石原周一、笹森登美夫、山本菊代、木下辰平各尋問の結果をあわせると、本件選挙の開票が終つた直後から市民の間に投票数と投票人員が一致しないとの声を生じ、選挙の管理執行につき疑惑をいだく者があつたので、昭和二十六年四月二十六日市内中部小学校講堂において市選挙管理委員会委員長小泉正夫をはじめ選挙管理委員同職員ならびに候補者選挙人らの有志が集つて、第一投票所関係の分について投票録、入場券選挙人名簿その他の関係書類について調査したところ、右第一投票所における投票録記載の投票人員は四、八四七とされているが、右投票に際し受付及び名簿対照用に用いられた選挙人名簿にあるチエツクの数は男二、二〇六、女二、四八三で外に不在者投票一二〇があつて合計四、八〇九であつて、投票録記載の投票人員数の方が三八多くなつていることを発見したことを認めることができる。しかしながらこのことから直ちに右第一投票所関係の実際の投票人数が不在者投票をも含めて四、八〇九であり、そこに三八のいわゆる水増投票があり、又は投票録記載が実際より三八多く作為されたものとの速断することは許されない。開票にあたつては各投票所の投票を開票区(本件では一個)ごとに混同して投票の点検がなさるべきものであるから(法第六十六条第二項)第一投票所の投票が何票であるかを投票自体から確認することはできず、その他にこれを確認すべき方法は本来ないのである(この点につき証人八島長衛は各投票所ごとに投票録記載の数と実際の投票数とを数えた上混同したと供述しているが、たやすく信用し難い)。しかも右調査の際対照した前記書類等によつては必ずしも明確な実際投票人数を把握することも困難である。この点につき証人八島長衛、柴田周蔵、染谷甲子郎の各証言によれば、右選挙の当日電車の事故がありそのため通勤者らの選挙人が一時右第一投票所に殺到したので、臨時に受付及び名簿対照係等を設け、事務に不馴れな係員がこれにあたつた事実をうかがい得るから、そこに名簿上全くチエツク洩れがなかつたとは保し難いのである。もつとも前記各証拠に乙第九号証の一ないし十三をあわせると、右第一投票所分の調査の結果さらに他の投票所の分も調査することとなり同月二十八日松戸市役所二階において第二投票所の分について同様の調査をしたところ、回収された入場券の数よりも選挙人名簿のチエツクの数の方がむしろ四個多かつたということを認めることができるけれども、このことから右第一投票所においてチエツク洩れがなかつたものと推論することは困難である。これを要するに右第一投票所において実際投票人員数と投票数との不一致もしくは実際投票人員数と投票録記載の投票人員数とが一致しないと判断することは不可能である。選挙人名簿にチエツクしもしくは入場券を回収する等の方法によつて後日実際投票人員がいくらであるかを証し得るよう配慮することはもとより望ましいところであり、この点において若干の手落があつたことを認め得ないわけではないが、これをもつて選挙の管理執行に関する規定違反であるとはなし難いといわなければならない。
(2) 右乙第九号証の一ないし十三、証人鈴木一郎、加瀬重雄、坂寄禅栄の各証言に検証の結果をあわせると、投票総数と投票人員数につき選挙録記載の投票総数が二五、三三〇であり、各投票所投票録記載の投票人員数の合計は同様二五、三三〇で両者は一致しているが、投票録記載の投票人員中不在者投票の不受理決定を受けたものが五、仮投票の受理未決のもの四があるから合計九票は投票総数において当然不足すべきところ右のように両者は一致していること、本件選挙は市長選挙と同時に行われ、かつ同月三十日には千葉県議会議員選挙が施行され、市選挙管理委員会はこれら選挙の入場券を一枚に印刷して各選挙人に配付したが、その調製方法がまずく、先に施行される市長及び市議会議員選挙の入場券の方に氏名住所等を記載し、切取線の下の方が後の選挙の入場券となつていたため、これを本件選挙で切り取つて回収するときは県議会議員選挙の方の入場券にはたんに名簿登録番号だけが残されることとなるので、その取扱につき各投票所において方針が一定せず、或いは右切取線の上部をとつて回収し、或いはこれを切り取らずに選挙人に返還する等の方法をとつたため、本件選挙の実際投票人員数がいくらであるかは入場券によつては判定し得ないこと、被告において選挙人名簿対照係の対照済印(チエツク)、受付係の受付済印(チエツク)、入場券その他関係書類を基礎とし、その最も多い数を集めて実際投票したと認められる人員数を調べたところ合計二五、二三一で右二五、三三〇に比して九九不足していたことを認めることができる。しかしながらこのことから直ちに投票人数よりも投票総数の数が九九多いということを断定し得ないこと右(1)の場合と同様である。
すなわち名簿の対照済印受付済印等のチエツクが必ずしも正確になされたものであることは保証し難く、入場券も一たん返却されたものが必ず県議会議員選挙においてさらに使用されて回収されればこれによつてその数を得られるけれども、本件選挙に投票した者が必ずしも県議会議員選挙に投票したとは限らないのであつて、ひつきよう被告の得た投票人員数というものは一応のものに過ぎず、結局右のような資料に基いてはこの選挙の実際投票人員数を正確に決定することは不可能という外はない。右不在者投票の不受理分五、仮投票の受理未決分四の合計九が投票総数において不足を来すべきに、人数と票数とが一致している点は不可解ではあるが、この点は選挙録記載の投票総数の集計をあやまり、又は投票総数中に右九票を混入することによつても結果し得るものであつて、当選の効力の問題としてはとも角、選挙無効の原因としての選挙の規定違反というのは当らない。入場券の扱いが不手際であつたことは特に選挙の管理執行に関する規定違反ということはできない。この点の被告(及び被告の主張と同様の補助参加人ら)の主張は失当である。
三、以上認定のように本件選挙には右二(一)ないし(五)のような各種の選挙の管理執行に関する規定違反がある。よつて進んでこれらの違反が選挙の結果に異動を及ぼすおそれあるものであるかどうかについて検討しなければならない。
(一) 本件選挙において最高位当選者とされた者の得票数が七〇七最高位落選者(次点者)の得票数が三五七でその差が三五〇であることは本件当事者間に争いなく、成立に争いのない丙第九号証の記載によればその他の当選者の得票数は別表のとおりで、その間の得票の差はきわめてわずかであることが明らかである。
(二) 前示二(一)の(1)ないし(3)の選挙人名簿に関する違法は、相まつて市選挙管理委員会の本件選挙の選挙人名簿調整の失当を示すものであり、これらの選挙人名簿によつては果して本件選挙において真実投票をし得る者はなんびとであるか、またその選挙人の数はいくらであるかを確定し得ないものである。従つてもしかかる規定違反がなく、その原本を一にし、昭和二十五年十二月二十日の前日において補充選挙人名簿に登録されておりながら、昭和二十六年度基本選挙人名簿に登録されることができないものについて、補充選挙人名簿を整理して作製し直した上この補充選挙人名簿を本件選挙に使用し、また名簿確定後にはなんびともこれに登録することがなかつたならば、少くとも三〇五名ないし六八六名の者は投票することができなかつた筈であるしかもこれらの人員を特定し得ないこと前記のとおりであるから、これらの者のうち果して何人が本件選挙において現実に投票しているかを判定し得ないこととなるのであり右(一)のような事情に照らせばとうてい右違法が選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないものとはいうことができない。
(三) 前示二(一)の(4)の縦覧手続に関する違法はたんに告示及び実際の縦覧場所と選挙人名簿の巻末記載とが一致しないというに止まり、かかる違反なしとするもこれのみではなんら選挙の結果に影響あるものとは解し得ない。
(四) 前示二(二)(1)の選挙事務従事者中投票立会人及び選挙立会人以外の全員の選任をあげて選挙につき権限のない市長職務代理者たる市助役に一任し、これによつて任命された者がもつぱら本件の選挙の管理執行にあたつたことは、それ自体選挙について市町村の理事者から独立した市町村の選挙管理委員会にこれを主管せしめることとしている公職選挙法の精神をじゆうりんし、選挙の公正自由を害し、ほとんど選挙管理委員会によつて管理執行された選挙とは解し難いこととなり、選挙の結果に異動を及ぼすおそれのあることは多言をまたない。
(五) 前示二(二)(2)の選挙立会人選任手続は、違法ではあるが結果においては届出のあつた者の互選による一〇人の選任に近いものとなつたのであり、右違法は選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものと解すべき根拠はない。
(六) 前示二(三)(1)ないし(3)の不在者投票管理の違法は、かかる違法の不在者投票が無効であり、従つてこれらの投票がいわゆる潛在的無効投票となつたものであることは明らかであるが、これをもつて直ちに右違法は当選無効の原因たるに過ぎないものとするのは早計である。すなわちもし市選挙管理委員会の委員長にして法令に則り右(1)のような投票をなさしめず(2)のような違式の請求を拒み(3)のような無権限の保健所長の請求をしりぞけ、すべて正規の手続を励行したとするならば、果してこのうちの何人がよく不在者投票をなし得たであろうか。不在者投票殊に在宅投票はそれ自体便宜多きものではあるが、それだけに安易に流れ選挙の公正自由を害するおそれもなしとしないところから、法はこれについて高度の形式性を要求し、ためにその正規の手続はむしろ煩雑である。不在者投票の管理について市選挙管理委員会委員長に右のような違法がなかつたならば、右投票者のある者はなお正規の手続をして投票をしたであろうが、ある者はその煩雑に耐えずむしろ棄権したであろうことは容易に推認し得るところである。しかもその幾人がなお投票し、その幾人が棄権したかはこれを確定し得ないこととなるので、これを前示(一)のような各自の得票数の接近した本件選挙の状況に照らせば、決して選挙の結果に異動を及ぼすおそれがないとすることを得ない。なおこの点に関する原告らの主張は右違法がたんに潛在的無効投票を生ぜしめるに過ぎないものとの前提に立つものであつて、失当であることは明らかである。
(七) 前示二(三)(4)の不在者投票封筒に所定の記載をしなかつたことは右投票を無効にすることあるに止まり、従つて当選無効の原因となることはあつても、この規定違反がなかつたことによつて選挙の結果に異動を及ぼすことは考えられないところである。
(八) 前示二(四)の投票箱点検の違法は第二投票所の選挙の公正に対する信用を傷つけるものではあるが、証人中台隆治、柴野竹次郎、山口角次郎らの証言によれば前示山口らが点検したとき投票箱には中に何も入つていなかつたことを認め得るから、右違法は選挙の結果に異動を及ぼすものとは解せられない。
(九) 前示二(五)の選挙会場に資格のない者を入場させて投票に手をふれさせた違法は、証人佐々木保夫、高橋道夫の各証言によれば同人らはたんに違法に入場して投票に手をふれたに止まり、それ以上なんらの作為もしたものでないことをうかがい得るから、これをもつて選挙の結果に異動を及ぼすものとは解し得ない。
四、果して然らば本件選挙は選挙の管理執行に関する規定に違反し選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものというべく法第二〇五条に則りその全部を無効とすべきものであり、被告が補助参加人ら外一名の訴願に対しこれと同旨の裁決をしたのは結局相当であつて、右裁決の取消を求める原告らの本訴請求は理由がない。よつてこれを棄却し訴訟費用及び補助参加費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条第九十四条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)
(別表)
当選者とその得票
得票 氏名 得票 氏名
七〇七 矢野泰 五〇〇 伊原潤
六二五 中沢峯吉 五〇〇 渡辺兼春
六〇〇 吉岡捨五郎 四八八 渡辺好一郎
五七三 山本政蔵 四八四 吉野岩松
五二六 小林豊次郎 四七六 古宮章光
五〇八 東風石松 四六一 石井喜一
五〇八 鈴木喜八 四五六 鈴木岩次郎
五〇七 吉野武平 四三〇 佐野泰助
四二一 斎藤喜一 三九七 宮田仁輔
四一六 湯浅槌蔵 三九六 星野惣平
四一五 橋本林次 三九二 栗山富太郎
四一〇 山口唯永 三八七 秋谷昇
四一〇 小暮一助 三八五 石井留次郎
四〇六 深山晴吉 三七六 笹島伝吉
三九七 松沢元吉 三六〇 渡辺健三
最高位落選者(次点者)とその得票
得票 氏名
三五七 栗山清 以上